「証拠が揃ったから、自分で相手に請求してみた」——こういった相談が、当社にも一定数寄せられる。

証拠を手にした直後は、「弁護士に頼まなくても自分でできる」という気持ちになりやすい。しかし示談交渉を自分で進めた結果、状況が悪化してから相談に来られるケースは少なくない。今回は示談交渉を弁護士なしで進めることのリスクと、適切な進め方についてお伝えする。

示談交渉とは何か

示談とは、裁判によらず当事者間の合意によって問題を解決することだ。

浮気・不倫の場合、慰謝料の金額・支払い方法・今後の接触禁止条件などを文書化し、双方が署名することで成立する。裁判よりも時間とコストがかからず、早期解決できるというメリットがある。

しかし示談は一度成立すると、原則として覆すことが難しい。「あとから追加請求したい」「条件を変えたい」という事態が起きても、適切な形で示談が成立していれば対応できないことがある。この「取り返しがつかない」という性質が、示談交渉を慎重に進めるべき理由だ。

弁護士なしで進めるリスク

リスク① 相場より低い金額で合意してしまう

慰謝料の相場は、婚姻期間、不倫の期間・頻度、精神的苦痛の程度、子どもの有無など複数の要素によって決まる。条件が揃えば300万円を大きく超えるケースもある。

弁護士なしで交渉すると、相手側(または相手の弁護士)から低い金額を提示されたときに、それが適正かどうか判断できない。「これが相場です」という説明を鵜呑みにして、本来受け取れるはずの金額より大幅に低い金額で合意してしまうリスクがある。

リスク② 示談書の内容が不十分になる

示談書には、慰謝料の金額だけでなく、今後の接触禁止条件、違反した場合の違約金、「清算条項」(これ以上の請求をしないという合意)の有無など、様々な要素が含まれる。

素人が作成した示談書は、これらの要素が不十分・不明確になりやすい。後から「こういう意味ではなかった」という解釈の齟齬が生まれ、再度トラブルになるケースがある。

リスク③ 感情的になって交渉が破綻する

当事者同士の示談交渉は、感情が激しくぶつかりやすい。「なぜそんな低い金額なのか」「謝罪の言葉が足りない」——感情的なやりとりが続くと、交渉が破綻し、裁判に移行せざるをえなくなる。

弁護士が代理人として入ることで、感情を切り離した冷静な交渉が可能になる。

リスク④ 相手に証拠隠滅の時間を与えてしまう

自分で相手に直接連絡すると、相手が「証拠を隠滅する」「言い訳を準備する」「共謀者と口裏を合わせる」時間を与えてしまうリスクがある。

弁護士を通じて適切なタイミングで請求することで、相手が準備する時間を最小限にできる。浮気調査と弁護士の連携でも触れたように、証拠取得から法的手続きへの移行のタイミングは非常に重要だ。

「弁護士なし」が許容されるケース

すべてのケースで弁護士が必須というわけではない。以下のような条件が揃う場合は、弁護士なしでも進められることがある。

  • 相手が全面的に認めており、金額についても合意が得やすい状況
  • 請求金額が比較的小さく、専門的な交渉が不要なケース
  • 離婚を伴わない、単純な慰謝料請求のみのケース

ただしこういった「簡単なケース」でも、示談書の作成には弁護士のチェックを受けることを強くお勧めする。示談書の文言一つで後々の解釈が大きく変わることがあるからだ。

示談交渉の適切な進め方

①まず弁護士に相談する 証拠が揃った段階で、まず弁護士に状況を説明し、請求額の見通しと交渉方針を確認する。

②内容証明郵便で正式請求 弁護士を通じて内容証明郵便を送付する。内容証明郵便は「いつ・どんな内容の請求をしたか」を法的に証明できるため、後のトラブル防止にもなる。

③交渉・条件の合意 弁護士が代理人として交渉を進める。金額・支払い方法・接触禁止条件などを詰める。

④示談書の作成・署名 合意内容を文書化し、双方が署名・捺印する。公正証書にすることで、支払いが滞った場合に強制執行が可能になる。

FAQ

Q. 弁護士費用が心配で、自分で交渉しようと思っています。

A. 弁護士費用を節約しようとして自分で交渉した結果、相場より低い金額で合意してしまうケースは多くあります。弁護士費用を差し引いても、弁護士に依頼した方が最終的に手元に残る金額が多くなることは珍しくありません。まずは相談だけでもしてみることをお勧めします。当社でも弁護士のご紹介が可能です。

Q. 相手がすでに弁護士をつけています。自分だけ弁護士なしで交渉できますか?

A. 相手に弁護士がついている場合、弁護士なしでの交渉は非常に不利です。法律の専門知識を持つ相手の弁護士と素人が交渉することになり、不利な条件を押しつけられるリスクが高まります。早急に弁護士に相談することを強くお勧めします。

Q. 一度示談が成立しましたが、金額が低すぎたと思っています。やり直せますか?

A. 示談書に「清算条項」が含まれている場合、原則として追加請求は難しくなります。ただし示談の成立過程に問題があった場合(脅迫・錯誤など)は、無効を主張できる余地があることもあります。まず弁護士に示談書の内容を確認してもらうことをお勧めします。

まとめ

示談交渉は「合意すれば終わり」という単純な作業ではない。金額の適正評価、示談書の文言、証拠の扱い——専門的な知識が必要な場面が多い。

弁護士費用を惜しんで自分で進めた結果、取り返しのつかない合意をしてしまうリスクは、弁護士費用を大きく上回ることがある。証拠が揃ったら、まず弁護士に相談してから動くことを強くお勧めする。

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