一般的に「浮気」や「不倫」と呼ばれる行為は、法律の世界では「不貞」という言葉で表現されます。これは、夫婦間で課せられる貞操義務に違反する行為、すなわち配偶者以外の異性と性交渉を行うことを指します。

法律上、離婚原因としての不貞行為は非常に厳格に取り扱われており、単なる親しげな関係や食事・旅行だけでは認められません。配偶者と浮気相手との性交の存在が確認できる、もしくは強く推認できる状況がある場合にのみ、離婚請求が認められるというのが原則です。

したがって、仮に離婚裁判を起こし、民法770条第1項第1号「配偶者に不貞な行為があったとき」を根拠に離婚を請求する場合、性交渉の事実を裏付ける証拠が必要不可欠となります。ただの噂や本人の曖昧な言い訳、LINEやメールのやり取りだけでは証拠としては不十分とされるケースが多いのが実情です。

つまり、確実に法的に離婚や慰謝料請求を成立させるためには、性交の事実を証明・推認できる確実な証拠を押さえておくことが極めて重要だということです。

SNSは証拠になるのか

近年、SNSは浮気の発覚につながる大きな要因となっておりますが、こうしたSNS上のやり取りが、直接的な不貞行為の証拠として法的に認められるケースは非常に限られています。

たとえば、LINEなどで「愛している」「昨日は楽しかった。ありがとう」といった文言が交わされていたとしても、それ自体では性行為の存在を確認または推認できる証拠とは見なされず、証拠能力はほとんどないとされています。

しかしながら、探偵事務所などによって収集された複数回にわたるホテルや自宅への出入りといった行動の記録と組み合わせて提示することで、やり取りの信憑性が高まり、状況証拠として一定の考慮がなされることがあります。それでもなお、これらはあくまで間接的な証拠にすぎず、確実に法的な効果を得るためには、より明確な証拠を整えることが重要です。

SNS上での会話や一緒に写っている写真などを根拠に、感情的になって相手を問い詰めたり、安易に調停や裁判を申し立てたりすることは、決してお勧めできません。こうした行動は、思いのほか簡単に相手によって反証され、立場を不利にしてしまうおそれがあります。

さらに注意が必要なのは、パートナーのスマートフォンを無断で閲覧したり、SNSへ勝手にアクセスする行為です。これらは「プライバシーの侵害」や「不正アクセス禁止法違反」として、思わぬ法的トラブルに発展する可能性があるため、十分にご注意ください。

浮気を疑う状況においては、冷静かつ慎重な対応が極めて重要です。行動を起こす際は、法的観点を踏まえ、信頼できる専門家に相談のうえで適切な対応をとることを強くお勧めいたします。

浮気発覚の要因、スマホ以外の「変化」に注目する時代

浮気発覚のきっかけとして、スマートフォンのチェックが挙げられるのは一般的です。見慣れない番号との通話履歴、知らない異性とのLINEのやり取り、さらにはホテルでの密会を匂わせるメッセージなど、スマホから決定的な証拠が見つかるケースは少なくありませんでした。

しかし、近年ではスマートフォンのセキュリティ強化が進んでいます。単純な暗証番号でのロック解除が困難になったり、「盗み見防止アプリ」の普及により、パートナーにスマホを勝手に触られたことに気づかれやすくなっています。こうした背景から、スマホが原因で浮気が発覚するケースは2020年頃から減少傾向にあると考えられます。

では、スマホでの発覚が減少している現代において、どのような要因が浮気発覚に繋がっているのでしょうか。浮気の兆候は、もはやスマホの中に隠されているとは限りません。むしろ、パートナーの行動パターンや生活習慣の変化言動の不審な点など、これまで以上に注意深く観察することで、異変に気づくことができるかもしれません。

夫婦間でもGPSは違法行為となる

前述の通り、配偶者のスマートフォンに勝手にアクセスしたり位置監視アプリをインストールすることは立派な違法行為となるためお勧めはできません。

また、配偶者の車に勝手にGPSを取り付けているご依頼者様が多くいらっしゃいます。このような行為は完全に違法行為となるので避けるべきです。「うちの車に付けるだけ」と軽く考えられている方が多いかもしれませんが、GPSを取り付ける行為は以下の罪に問われます。

  • プライバシー権の侵害(夫婦間でも、相手の行動を常時監視する権利はありません。)
  • 不正指令電磁的記録供用罪(刑法168条の2)
  • 軽犯罪法違反(1条30号:他人の承諾を得ずに位置情報を追跡する行為)
  • ストーカー規制法違反(特定の条件下で、つきまとい目的で位置情報を取得し続ける場合)

GPSの情報は証拠にならない

GPSの位置情報は、あくまでもそのGPSがその場所にあっただけ、というデータにすぎません。仮に車に取り付けて車があった場所ということが立証できたとしても、あくまでも車があっただけ、ということになります。もしラブホテルの駐車場に車が停まっていて、その写真を収めたとします。それでもラブホテルの駐車場に車が停まっていただけ、ということになります。もしも本人がホテルから出る瞬間の写真が撮れたとしても、その時間にホテルから出てきただけ、ということになります。

【浮気の証拠】【不倫の証拠】とは、何時に誰が誰とこのホテルに入り、何時に誰が誰とこのホテルから出てきたのか、という映像が必要となるのです。車の写真だけの場合、「車を貸しただけ」という言い訳も通用しますし、本人がホテルから出てきた写真があったとして、「間違って入ってしまったから、すぐに出てきた」という言葉も通用してしまうのが裁判です。

そもそも違法行為で得た証拠は証拠として採用されません。

裁判では原告側に立証責任がある

裁判においては、原則として原告(訴訟を起こした側)が主張の正当性を証明する「立証責任」を負うことになります。そのため、不貞行為を理由に訴訟を起こす場合には、原告側が「性行為の存在を確認または推認できる証拠」を提出し、相手方の不貞を立証する必要があります。

つまり、浮気をされたと考える側が、配偶者の浮気の事実を証拠に基づいて明らかにしなければならないということです。言い換えれば、あなた自身が浮気の証拠を収集し、それを裁判所に提出する義務があるのです。

証拠が十分に揃っていない状態で裁判を提起しても、訴えが取り合われない、あるいは不利な結果となってしまう可能性が非常に高いと言えます。実際、弁護士に相談した際にも、まず最初に「どのような証拠をお持ちですか?」と問われるのが一般的です。そこで有力な証拠が提示できない場合、「まずは証拠の収集から始めましょう」という流れになることが多いのです。裁判や法的手続きを見据えて行動される場合には、冷静かつ戦略的に、確実な証拠を確保しておくことが何よりも重要です。

不貞の証拠=肉体関係を推認できるもの

調停・裁判で証拠が不十分だったケース

  • 浮気相手のとの通話履歴
  • 浮気相手と食事をしている写真
  • 浮気相手と行ったと推測される飲食店のレシート
  • 浮気相手に買ったと思われる物のレシート
  • ラブホテルの駐車場に止まっている車の写真
  • 浮気相手とのメール・ラインのやり取り
  • 浮気相手と手を繋いでいる写真
  • 浮気相手とキスをしている写真
  • 浮気相手とラブホテルに入る写真
  • 浮気相手とラブホテルから出る写真
  • 浮気相手の自宅に入る写真
  • 浮気相手の部屋から出る写真

裁判・調停で浮気を立証できて勝訴できる証拠

  • ラブホテル・シティホテルに出入りする証拠が2回以上
  • 浮気相手の自宅に出入りする証拠が2回以上(滞在時間による)
  • 2人きりで旅行に行って宿泊している証拠
  • 詳しく確認できる車内での性行為の写真が2回以上

証拠を揃えるうえで最も重要なことは、肉体関係が継続しているという証拠を揃えること。すなわち複数回(最低でも2回)の決定的な証拠が調停・裁判では鍵を握ります。

SNS関係・メール・ライン等は浮気発覚の要因にはなりますが、残念ながら調停・裁判で勝てる証拠には確実になりません。最悪のことまでを想定し、確実に勝てる証拠を手にしておく必要があります。 勝てる証拠が有るか無いか、それだけで慰謝料の金額が500万円以上も開くケースもあります。

離婚裁判での「不貞行為の証明」は難しい

離婚裁判において「不貞行為の立証」がいかに困難であるかを示す一例として、たとえ配偶者が異性とラブホテルに出入りした証拠が一度だけあったとしても、あるいは一緒に旅行に行った事実があったとしても、それだけでは性行為の存在を裏付けるには不十分と判断される場合があります。

このような場合、裁判所は民法第770条第1項第1号に定められた「不貞な行為」としては認めず、第5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するとして離婚を認めるにとどまり、慰謝料請求については却下される、あるいは大幅に減額される可能性があるのです。

離婚裁判では、「配偶者の不貞行為(民法770条1号)」が認められて離婚が成立するのか、それとも「その他婚姻を継続し難い重大な事由(民法770条5号)」が適用されて離婚となるのかは、結果に大きな差を生む極めて重要なポイントです。

特に、離婚請求と同時に提起されることの多い「慰謝料請求」においては、不貞行為が明確に立証されているか否かで、その認容の可否や金額に大きく影響を及ぼします。「不貞行為」と認定されれば相応の慰謝料が認められる可能性が高まりますが、証拠が不十分な場合には慰謝料が否定される、あるいは大きく減額されるリスクがあるのです。

このように、離婚裁判では「どのような法的根拠で離婚が認められるか」が、その後の慰謝料など経済的利益に直結するため、確実かつ十分な証拠の収集と、法的戦略に基づいた対応が不可欠です。

不貞と離婚の因果関係必の立証も必要

不貞行為を理由に離婚および慰謝料請求を行う場合には、単に不貞の事実を立証するだけでは不十分です。さらに重要なのは、「その不貞行為が婚姻関係を破綻させた原因である」という因果関係を立証することです。

実際の調停や裁判の場面では、浮気相手や配偶者が「不貞が始まった時点ではすでに夫婦関係は破綻していた」と主張してくるケースが非常に多く見受けられます。こうした主張が通ってしまうと、慰謝料請求が認められない、あるいは大幅に減額されてしまう可能性があります。

そのため、相手の主張を打ち消すためには、不貞行為の発覚以前に夫婦関係が良好であったことを示す証拠の確保が非常に有効です。たとえば、夫婦間での仲睦まじいやり取りが残されたLINEのメッセージ、日付入りの夫婦や家族での写真、記念日や旅行の記録などがあれば、それらは「夫婦関係は破綻していなかった」とする強力な反証材料となり、相手の主張を否定する方向で判断される傾向にあります。

このように、不貞の事実そのものに加えて、「婚姻関係の破綻との因果関係」や「夫婦関係の実情」を証明する証拠も、極めて重要な要素となります。今後の調停・裁判に備えて、可能な範囲でこれらの証拠を整理・保存しておく必要があります。

隠し録音した自白も証拠になる

一般的に、LINEやメールなどのやり取りは、浮気を発見するきっかけとなることが多いものですが、それ自体は法的に有効な不貞の証拠とはなりにくく、証拠としての価値は限定的です。ほとんどの場合、こうしたメッセージは「状況証拠」として扱われるにとどまり、直接的な不貞行為の立証には至りません。

LINEやメールの内容から浮気を疑ったとしても、感情的になってすぐに相手を問い詰めることは、絶対に避けるべきです。なぜなら、その時点で相手に警戒心を与えてしまい、以後の証拠収集が極めて困難になるからです。

まずは冷静に行動し、他に確かな証拠がないかを慎重に調査することが重要です。ある程度の証拠を揃え、準備を整えた上で、相手が油断しているタイミングを見計らって突然話し合いの場を設けることで、思わぬ自白を引き出せる場合があります。

このような話し合いの際には、可能であれば相手に気づかれない形で録音を行い、その会話内容を証拠として記録しておくと有効です。特に、最初の話し合いで不貞を認めるような発言が録音されていれば、極めて強力な証拠となります。

なお、話し合いの後は相手も警戒を強め、証拠を残さないように行動したり、発言を慎重に選んだりする傾向があります。そのため、最初の話し合いは非常に重要なタイミングであり、後の調停や裁判を見据えた証拠収集のチャンスといえるでしょう。

このように、感情的に動くことなく、戦略的かつ冷静に対応することが、不貞行為の証明とその後の法的手続きを有利に進める鍵となります。

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